2016年9月3日土曜日

kumagusuのインタビュー / 井上Y x 渋谷陰一③<無呼吸ファンクラブ、アンデパンダン、MV、Y篇>


<無呼吸ファンクラブ、kumagusuのアンデパンダン>



陰一 : このアルバムは自主制作で出してるよね。

Y : うん。”無呼吸ファンクラブ"っていう自主レーベルを作って。

陰一 : 例えばどこかのインディーズレーベルに送ってみたりとか、そういうやり方もあったと思うんだけど、自主レーベルという形を選んだ理由を教えて欲しい。

Y : kumagusuは自分たちの企画も”kumagusuのアンデパンダン"っていうんだけど。

陰一 : 「読売アンデパンダン」とかのね。

Y : そう。元々はフランスの無審査無褒賞の自由出品型の展覧会。で、”アンデパンダン"は直訳すると多分”Independent”で 独立 とかって意味になると思うんだけど、なんていうかこの、自分たちで独立してやるっていうのは結構キーワードのひとつというか、スタイルとしてやってきたいと思っていて。そう考えると自主レーベルで っていうのは単純にやりたかったというのもあるし、もうちょっと現実的なとこを言えば アルバム制作から流通までの流れを自分たちの目線を通してちゃんと知りたかったっていうのもある。

陰一 : 例えば近しいバンドを無呼吸ファンクラブから出したい とかもあるの?

Y : 漠然とそんな事も出来れば面白いな、とは考えるね。折角自主レーベルって形にしたんだしそれを使って遊びたいって気持ちはある。

陰一 : 拠点としてって感じになっていくのかな。






陰一 : さっきから出てる、”kumagusuのアンデパンダン”。これはkumagusuの企画名だけど前回の5月の企画で何回目?

Y : 4回目か5回目ぐらいかな。前回のが「kumagusuのアンデパンダン"city,感覚ゼロ篇"」ってタイトルで出演バンド数も一番多かったね。



陰一 : 自分も5月の企画を観に行って凄く面白い企画だなと思った、出てるバンドはバラバラなジャンルなんだけど何かまとまりがあるというか。

Y : うん。

陰一 : やっぱり大抵の企画はひとつのジャンルに絞ってまとめていくっていうのが普通だと思うんだけど、そうではなくてハードコアや歌物やニューウェーブやヒップホップ、ノイズや展示まで混ざったあの形はなかなか無いよね。

Y : kumagusuのジャンルは オルタナティヴ でいいと思ってる、けどそれは他のどのジャンルとしても括ってもらいにくいようなコンプレックスというか、考えるところもあって。だから割とバラバラなジャンルや展示のようなプラスアルファを集めた企画を「自分たちが出演する事でまとめる」っていうのは自分たちにとって凄くいい形だと思ってる。

陰一 : たしかにkumagusuは歌物に分けられても少し違うし、なかなか分かりやすい所に入れないという(笑)強みでもあるし、弱みでもあるね。

Y : ずっと弱みだったね。だからそれを”アンデパンダン”を通して むしろどこでもやれる って形に出来たら良いなって。おれは”オルタナティヴ”の意味は”代替案”で良いと思ってるし、企画としてもどこか新しい感覚のものにしていきたい。

陰一 : これから”アンデパンダン”でやりたい事っていうのは何かある?構想として。


Y : 浪曲師呼びたい。

陰一 : 浪曲師?

Y : 浪曲師呼びたいんだよね。

陰一 : ‥…浪曲師?(笑)

Y : 浪曲師呼びたい。

陰一 : バンドではなく(笑)なぜ?

Y : 浪曲最近聴いてるんだけど凄く良いんだよ、泥くさくて。もちろんバンド出演含めた上でそういう人たちがいたら面白いだろうなと思ってる。”アンデパンダン” はバンドの演奏を観に行くだけではなくて何かプラスアルファであるような、そういう形でやりたい。

陰一 : なるほど。

Y : あとは本当にアンデパンダン展みたいに、自由出品での展示の公募をかける とかもやりたいね。

陰一 : 5月のときはY君も展示してたよね、石川開さんの写真と。昨年のアンデパンダンではイラストレーターの たざきたかなり さんも展示に呼んでいたり。やっぱり何か違うジャンルのものと混ざり合っていきたいみたいな意識があるのかな?浪曲師を呼びたい っていうのも。

Y : うん。むしろそうした方がkumagusuの立ち位置はわかりやすくなるんじゃないかと思ってる。自分たちなら少しバラバラなジャンルを企画としてまとめられると思って。

陰一 : ますます複雑かつ面白くなりそうだね。どんどん違うジャンルやいろいろな人を呼んで、だけどもどこか繋がっているような‥。

Y : それがかなり重要。違うジャンルなら良いってわけでもないしね。何か繋がっている、自分たちと違う人たち。

陰一 : 面白ければ良いっていうのともちょっと違うよね。今後の展開も凄く楽しみ。






<MV、Y>


陰一 : この間ミュージックビデオ”ツリメの”がアップされたね、このMVについても聞きたい。最初に観た感想は凄く映画的だなと思ったんだけど。

Y : 嬉しい。

陰一 : バンドの演奏シーンとか、曲の雰囲気にあった映像をつけたMVっていうのともまったく違って。ていうか演奏シーン出てこないしね(笑)物語形式で飽きが来ないというか、youtubeでありがちな途中にザッピングで他に飛んじゃうようなことなく最後まで集中して観れた。やっぱり映画の影響はある?

Y : 映画の影響はあるね。

陰一 : これは元ネタとかあるの?

Y : これは無いね。

陰一 : そうなんだ、何か凄くありそうな感じがあって(笑)

Y : まあ似たようなのはあるかもしれないけど(笑)
MV作るにあたっては、というかバンドに関するものは全部そうなんだけど、連想ゲームでやりたいっていうのがある。
演奏シーンのMVとかは、どういう人たちがやってる とか バンドのイメージを具体的化させられるとは思うんだけど、どっちかというとMVを観たときにもっと別の広がりを持ってもらえるように作りたかった。

陰一 : 物語的だよね、凄く。

Y : うん。三ヶ所使って撮影したんだけど、一応脚本、というかワンシーンごとの流れを文章でまとめて映像のイメージもある程度明確にした段階で撮影を担当してくれた白岩さんと打ち合わせして…。

陰一 : 物語を解説するとどんな感じ?

Y : まずアル中の男がいて…

陰一 : アル中の設定なんだ、彼は。

Y : うん、アル中で良いと思う。とにかく抑圧された男。その男が断酒をやめる。

陰一 : 断酒って書かれた紙をビリっと破くとこから始まるね。

Y : そうすると、まわりではニコやかに酒を飲んでる奴らがいる。ムカつくじゃん、(主人公は)金もなさそうだし。こっちは酒飲みたくてイラついてるのにヘラヘラ飲んでるやつ。

陰一 : 絵的にも貧乏な印象あるね(笑)

Y : その中に山崎が卑しく酒を飲んでるのをみつけて、それを奪い取って飲もうとする。けどもう酒は残ってなくてイラつきが募る。で、さまよう。さまよった上酒屋の納品している酒を奪って逃げる。
逃げた先には、やっぱり何かがなくてはいけない。だから突然現れた女が酒を飲み始める。なんていうか、現実的な抑圧からフッと出てくるような幻想的なところにいきたかったね。

陰一 : あの女性も最後消えちゃうしね。

Y : 幽霊だったのか、幻覚だったのか‥

陰一 : 凄く面白いなと思ったのは”ツリメの"って言ってるけど、目を見せないよね。あれはなぜ?

Y : さっきも話したけど、”ツリメの女"ってやっぱり頭の中の、というか言葉としての面白さだと思うんだよね。現実に「これがツリメの女です」って提示するよりは、言葉としてのものに留めたほうが観た人聴いた人それぞれのイメージが湧くだろうって。だから目は絶対映したくなかった。

陰一 : なるほど、あえて想像にまかせるというか。

Y : そうだね。

陰一 : 今回主役を務めたのは、s.u.z.u.k tultuuga ockestla さん。この方は一人でやってる?


Y : うん、基本は弾き語りでやってるね。一昨年ぐらいに知り合って。
今回のMVは撮るぞって決めてからがかなり急ピッチで、撮影の白岩さんや出てくれる人に声かけるところから編集してyoutubeにアップするまでで一週間ぐらいしかなかった。だからs.u.z.u.kさんにお願いしたのもギリギリで、出てもらえたのはかなり奇跡だなーと思ってる。

陰一 : すっごく良い顔してるよね。

Y : 良い顔だよねー

陰一 : うん、最初は俳優業やってる人かと思った(笑)


Y : でも今度友達の映画に出ると言ってたし、本当にそういう顔だよね。音楽的にも凄く面白い人なんだよ。ライブでは切れ目なく演奏する形で、曲は一曲ずつちゃんとあるんだけどそれを切れ目なく、s.u.z.u.kさんの世界に没頭してやる って感じ。そういう人だからこそのあの存在感だと思う。

陰一 : キャスティングめちゃめちゃ良いなと思ったよ。

Y : 本当に全部決まったのは奇跡的だったな。MONO NO AWAREのシュウケイも前日に決まったし、バドワイザー飲む男役で一緒に出てるヨシツグさんて人もダメそうだったのが当日急遽オッケーになったり。ここ(巣鴨焼きとん呑丹)も直前に使わせて欲しいといってオッケーしてもらえて、しかも店主役でそのまま出てもらったり。(店主の執行さんは"ツリメの"でそのまま店主役)

陰一 : 撮影の方は?

Y : 白岩義行さんって方にお願いした。MVとかも撮っている 人なんだけど、5月のアンデパンダンのときにエレファントノイズカシマシの紹介で知り合ってね。
前回のMV(海まで)は石川開君に撮影頼んだりはしたけど編集は自分でやってたから、今回は編集まで白岩さんと一緒にやってすごく刺激になった。

陰一 : 映像の画質とかカメラワークとか、素人とは違うって分かるもんね。

Y : うん、塚本晋也監督の”野火"(2014.日本)でボランティアスタッフで参加もしてて、MV以外にも映画関係の仕事もしてるし、映画の人だなと思うね。撮影のときの求めてるカメラワークもバッチリ押さえてくれて。編集のときもかなり阿吽の呼吸でできたと思う。






陰一 : ここからちょっとY君のこと聞きたい。世界観が独特だし、それを分かりやすく伝えたいって気持ちもあるんだけど、例えば影響を受けてるもので音楽以外のところって何があるの?
Y : うーん、やっぱり漫画と映画かな?kumagusuは つげ義春的な とか結構言ってもらったりするんだけど、ガロとATGはかなり影響あると思う。

陰一 : なるほど、ガロって言っても根本敬さんだったり今のアックスとかにつながるような感じではなく…

Y : もっと渋いところかもね。

陰一 : うん。つげ義春さんの名前が出たけど、白土三平さん、安部慎一さんだったり林静一さんとかの感じというか。

Y : 絵に関しては蛭子さんが。

陰一 : あー、たしかに。Y君のイラストはね。

Y : おれのイラストの根底は蛭子さんだからね。

陰一 : 似てるよね(笑)蛭子さんの不条理かつ影のあるような感じ、まさに近いかも。映画はピンポイントで何かある?

Y : 映画は”ツィゴイネルワイゼン”だね。

陰一 : 鈴木清順監督の。

Y : うん、あれは自分の思う日本的な静けさと、不気味さと綺麗さの全てというか‥。怪談話的な土着的なところに新しい描写がひたすら散りばめられていて凄く好き。美味そうな食事シーンもたくさん出てきて最高だし。エロいし。

陰一 : あれも不条理な映画だよね。パッと一回見ただけでは分からないような。やっぱりさっきの漫画もそうだけど、日本のものというか、日本のアンダーグランドなもの からは影響があるんだね。

Y : あると思う。もともと実家にそういった漫画が結構あって。

陰一 : 蛭子さんとか?

Y : うん。ねじ式のお医者さんゴッコシーンとかエロ本だと思って小さい頃読んでたし(笑)染み込んでる感じはあるだろうね。

陰一 : やっぱり歌詞世界もそうだし、MVとかの視覚的なイメージもそういったところからきてるんだね。

Y : うん。おれは高校でギターをはじめたときに最初聴いたのが”NUMBER GIRL”だったんだけど、NUMBER GIRLの見せ方として ジャケとかのイラストはガロ、映像はATG だと思っていて。

陰一 : NUMBER GIRLは映画の影響すごくあるよね。曲名にも映画タイトルつかったり、タッチのMVとか。

Y : あれは家族ゲームだよね。

陰一 : うん、パロディ的にも盛り込まれてるし画質とかも80年代ぐらいの日本映画みたいだし。

Y : それが自分の中でマッチしたのもあってギターをはじめて一番ハマったのはNUMBER GIRLだったね。

陰一 : なるほどね。でもkumagusuは、だから自分たちもこういう形でって感じでもないよね。自然と染み込んでたものを出した結果というか。影響を感じつつもそれとは全く別のオリジナリティがあるのがすごく大きいと思う。

陰一 : 他に何かある?影響をうけたもの。

Y : うーん。あとはシュールレアリズム的なものからの影響は大きいかなと思う。影響‥というのか。ありえない組み合わせのものが一緒描写される面白い違和感っていうのは、自分で歌詞をつくるときの言葉の組み合わせで新しい何かに辿り着きたいっていうのに直結してる気がする。

陰一 : なるほど。

Y : 昔シュールレアリズムの詩集って本を読んだんだけど、シュールレアリズムの黎明期のころのものかな。自動記述って言ってほぼ眠りかけの状態で無意識にペンを動かして作った詩とかね。それは正直おもしろくなかった。いかにキテレツな組み合わせであろうと、取捨選択がされてなければダメだな。っていうのはそこで強く感じたね。

陰一 : 取捨選択か、洗練ともいえるかもね。

Y : うん。映画の話に戻るけど、”ツィゴイネルワイゼン”がすごく好きな理由もそういうとこだと思う。
あの映画最初観るとついていけないぐらいメチャメチャなんだけど、やっぱり根底には内田百間の小説(サラサーテの盤含む短編)があるし、実は全体でとても筋が通っていて。それを鈴木清順のフィルターを通してメチャメチャに組み合わせていったような。ただ取ってつけた組み合わせではなくて、自分的にはそういうところに感動を覚えるね。

陰一 : コンプレックスとかは何かあった?例えば銀杏BOYSだったらモテない青春とか童貞、だったり。そういうところからの衝動がロックに向かうような形もあるけど。

Y : コンプレックスで溜まったフラストレーションを爆発させる、みたいなのは自分の中ではあんまり無いかもな。強いて言えばおれは運動がかなりダメだったけど。運動、というか球技かな。球技は最悪。誰がみても動きがおかしいと言う(笑)

陰一 : あー、運動。学生のころの運動部とか輝いて見えるしね(笑)

Y : だから小中高と学校のスポーツ関係でヒーローになれないような鬱屈とした気持ちも分かるは分かるんだけど。でもあんまし関係ないと思うな。それより、自分としては前に篠原さんがボソっと言ってたことがすごくしっくりきてて。

陰一 : 篠原篤一さん?kumagusuもちょくちょく一緒にやってるフォークシンガーの方だよね?



Y : そう。前に小岩BUSH BASHで弾き語りで一緒だったときに出演者をみながら
「変なやつばっかりだよなあ。おれたちも含めて。でも、ここでこうやって集まってやってる人たちは子供のときとか何かしらの違和感を感じてた人な気がして、そういう人たちがこうしてライブやってたりするの考えてちょっと泣きそうになった。」と言っててね。なんだかこれが全てな気がした。口で説明するの難しいけど、そういう違和感を払拭したい みたいな気持ちはたしかにおれにもあるかもしれないと思って。


陰一 : 違和感 ってすごく漠然としてるけどね。たしかに何となく分かる気がする。

Y : もちろんコンプレックスからの爆発って人もいるだろうけど、なんだろう、主役級になるようなコンプレックスがないやつはそれがコンプレックスになりうるし。特に何か作ったりするの好きだったりするとね。だから特別大きなトラウマやコンプレックスがなくても、この違和感の蓄積っていうのは何となくわかるんだよな。

陰一 : 本当に、何となく な話だね(笑)

Y : でもおれは 何となく とか 中途半端なことは好きだよ(笑)むしろkumagusuの武器は中途半端さでもあると思ってる。
 極端なところに行くって事はある意味正解がちゃんとある方に行く事だと思ってるし。どこにも寄り過ぎない中途半端なところを掘り下げていったら、それは新しい極端な形になるんじゃないかな。とか思ったり、思わなかったり。

(2016.8.26 巣鴨焼きとん呑丹 にて)





kumagusu / 夏盤 

【トラックリスト】
1. サスティン
2. ツリメの
3. 海まで
4. 夜はアルカリ
5. あとかたなく
6. フェード
7. 呼吸をととのえて
8. natsu track
9. ローな人々
10. 微熱は終わった

¥1,600+税

<取り扱い店>
FILE-UNDER RECORDS
Amazon
diskunion
タワーレコード
ヴィレッジヴァンガードララスクエア宇都宮店
喫茶 東京鼠(高円寺彦六)
小岩BUSH BASH






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